新築工務店 事例 1
       
       成功事例ではありませんが、いろいろなご苦労を紹介して行きます

        
  
現場と会社のすぐ近くで他社に取られた!


             長崎市A工務店

                 資本金  個人
                 社員数  5名
                 (内訳)  社長・事務1・常雇大工3
                 年 商  8,000万円
                 主力工事 新築工事(木造在来)


        長崎市のA工務店は創業30年だが法人格ではない。
        親方(社長)は55歳で、若い頃から大工の一人親方で頑張って来た。
        ここ数年前から10代の弟子を3名取り、常雇大工として教えてやってい
        る。匠の技を後世に残したいとの気持ちで自分の技術や心構えなどを中
        心に、弟子達を鍛える毎日だ。
        今までは特に営業らしい営業はしなかったが、それでも紹介などで仕事
        は切れる事なくあった。
        口下手だが腕には自信があり、それを知っている施主も多かった。

        1年前、親方に取ってショックな出来事があった。
        それは、すぐ近所で他社の新築工事が始まった事だった。会社から数軒
        先で、大手在来工法メーカーのH日本ハウスが看板を立て、基礎工事を
        始めたのだ。
        その土地の所有者は親方もよく知っている同じ町内の住民で、「家を建
        てる時には絶対に親方に頼むけん」と言われていたからだ。
        その後、数人の技術者風の人間が土地を測量しているのを見て、いよい
        よ注文が来るだろうと楽しみに待っていた矢先だっただけに、余計シ
        ョックだった。
        早速その土地の所有者のところに行ってみると、「親方に頼みたかった
        んやけど、息子がH日本ハウスに決めて来たったいね」とつれない返事。
        その家が出来上がって行くのを横目で見ながら、複雑な心境だった。
        
        次に立ち直れないほどの衝撃だったのは、建築中の現場の隣の家がや
        はり大手プレハブメーカーSハウスで建築を開始したことだった。
        隣の住民はなんどもこの工務店の現場に見に来ており、親方とも親しく
        なり、何枚も図面を描いてやっていたので、まさか知らない内にプレハ
        ブメーカーと契約をするなどとは夢にも考えていなかった。
        後日その隣人が親方を尋ねて来て、申し訳なさそうにこう言った。
        「モデルハウスを見に行ったら、連日営業マンに訪問されて、どうして
        も断れんやった」

        親方は、数日間眠れないほど悩んだ。
        世の中が変わってしまった…。
        いい家を建てていれば認められて、注文が来る時代はもう終わったと思
        った。今まで30年間、営業らしい営業をしていなかった事を悔やんだ。
        腕を持っているだけではダメだと思い詰めた。
        親方があまりに苦しんでいる姿を見た弟子の一人は、「親方、俺達が回
        ってみますたい」と言って、現場周辺を1軒1軒回り始めた。
        その姿に親方も意を決して、生まれて始めて営業をする決心をした。
        それからが問題だった。どうしても人に頭を下げられないのだ。注文を
        下さいという一言がどうしても言えない。
        
        若い弟子達のように、飛び込み営業などとても出来ないので、手書きの
        チラシを作り、ポストに入れてみた。
        しかし、カタンというポストの音に気付いて家人が出てくると、逃げる
        ようにしてその家の前から逃げる毎日だった。
        それから営業に関する本を買い込み、毎晩勉強を始めた。親方がそんな
        勉強をすることなど今だかってなかったことだ。
        その勉強の中で親方は、ある言葉に感動したと言う。
        それは「自分の力を過少評価してはいけない」という言葉だった。

        

        自分にはもうこれ以上出来ないと判断したら、それ以上のことは出来な
        い。まだまだアクセルが踏めると思うと、案外踏み込めるものなのだ。
        往々にして、自分の力を過少評価してしまう。
        戦争での敗因の半分は自分の過少評価である。
        もう少し踏ん張れば相手は降参したのに、相手を過大評価して自分を過
        少評価するから、白旗を上げてしまう。
        自分の力をもっと評価しなさい。

        

        親方は「自信を失いかけていた」と思った。
        会社の近くや現場の隣で、他社に仕事を取られて、今までの自分のやっ
        て来たことが間違いだったのかと自問していたが、決してそれは間違っ
        ていないと自信を持つことが出来た。
        自分の腕をもっと過大評価して、大手メーカーに負けない気概を持って
        頑張ろうと決めた。
        
        親方は気持ちの上でとても楽になり、なぜか営業も苦ではなくなったと
        言う。始めて訪問するお客様にも、技術力では自分に自信があるだけに、
        説得力のある話し方が次第に出来るようになった。
        それから半年、チラシも大変進歩しデザイン的にも大手メーカーに引け
        を取らないものが出来た。
        
        親方は言う。
        「受注が途切れたり、他社に仕事を取られてもそげん考え込まんように
        なったですたい。先は長かですけん」
        まだまだ試行錯誤は続いているが、いろいろ私に話してくれる親方は、
        「前途多難やけど、一生懸命考えながら進んで行きますばい」と、とて
        も明るかった。


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